巡る奈良

特別講話16祈りの回廊 2016年春夏版

「現代に受け継ぐ寺子屋の学び」 長弓寺 円生院
副住職/池尾 宥亮

―英語を取り入れた「テンプリッシュ(Templish)」という活動をされていますね。それは学びの場として、弘法大師・空海とも関わりがあるとお聞きしました。
―英語を取り入れた「テンプリッシュ(Templish)」という活動をされていますね。それは学びの場として、弘法大師・空海とも関わりがあるとお聞きしました。

池尾副住職 書家としても有名なお大師さん(=弘法大師・空海)は語学の達人でもありました。大学を中退してから渡唐するまでの24歳から31歳までの間、書物に記述がない空白の7年間があります。恐らくこの間、いろいろな方について当時国際語であった唐語を猛勉強されていたのでしょう。
密教の教えを求め危険な航海の末に唐へたどり着くも、国書などを流失して不審船扱いされ上陸できなかった際、お大師さんの書いた見事な嘆願書のおかげで入唐を果たせたという史実から、日本にいながら唐語を習得されていたことが分かります。それだけではなく、唐の長安に滞在していた際には、わずか数カ月で密教を学ぶために不可欠なサンスクリット語をマスターされました。
お寺で英語を教えることに対して、「茶道や華道を伝えるべきでは?」と言う方もおられました。ですが私は、現代の国際語である英語を学ぶことは、お大師さんのご遺志に沿ったものだと思っています。
―「テンプリッシュ」では、具体的にどんなことをしているのですか?
―「テンプリッシュ」では、具体的にどんなことをしているのですか?
池尾副住職 寺(テンプル)と英語(イングリッシュ)をかけた造語で、小学生を対象に2013年10月からスタートして、毎月1回開いています。夏には流しそうめん、秋には芋掘り、正月には羽子板作りや福笑いなど、季節ごとの行事を楽しみながら英語に親しむ形式で、地域の方々がボランティアで協力してくださっています。
難しい文法を学ぶのではなく、コミュニケーションツールとして英語を使う。一度体験すれば楽しさは分かってもらえるようで、中学生になってもお手伝いとして参加してくれる子たちもいます。
江戸時代には、全国で1万を数える寺子屋が自然的に発生していたそうです。お寺にすごい力があったのですね。今、全国にお寺は約7万あるそうですが、人々の話題に上る回数では4万軒のラーメン屋さんにかないません。私はこの活動を通じて、地域と寺とのつながりを取り戻したいと思っているのです。
―さまざまな年齢の子が一緒に遊べるのは、いい経験になりますね。
―さまざまな年齢の子が一緒に遊べるのは、いい経験になりますね。
池尾副住職 子どもたちの間で、いじめが大きな問題になっています。子どもの世界が学校と家だけだと、いじめに遭った時に立ち直ることが難しいと思います。
実は私も高校時代、学校を辛く感じた時期がありましたが、音楽バンドをしていて、違うコミュニティーがあったことが救いになったんです。子どもたちにとってこの場所が、そういうものになればと願っています。
また、参加した子どもたちがいつか海外へ出た時、日本のことを発信できる人材になってくれれば、こんな喜びはありません。地域貢献というありがたいことをさせてもらえていることに、心から幸せを感じています。
―写真の子どもたちの笑顔を見れば、活動の素晴らしさが分かります。お寺での活動だからこそ得られるものは何でしょうか?
―写真の子どもたちの笑顔を見れば、活動の素晴らしさが分かります。お寺での活動だからこそ得られるものは何でしょうか?
池尾副住職 「命」の大事さを、じかに感じられることでしょうか。自らサツマイモを植え、収穫し、頂く。畑の芋虫に初めは悲鳴を上げていた子が、やがて平気で触れるようになる。そんな自然環境や雰囲気を護持してくださっているのは仏様ですから、最後は必ずお堂で般若心経を唱えています。
楽しそうにお経をあげる子どもたちを見て、ある方が「今日が楽しかったから、お経を読むのも楽しいんでしょうね」とおっしゃいました。素晴らしい経験を得られたことに対し、自然と感謝の思いが湧く。私はこれこそが「祈りの原点」だと思います。そんな体験を数多くさせてあげたいし、私自身もまた、子どもたちから学びたいと思っています。
賛同していただけるお寺には、活動のノウハウを公開したいと考えています。地域とつながり、寺という存在の価値を高めていく。その発信を、国の始まりの地・奈良からできたらいいなと思っています。
プロフィール

プロフィール

長弓寺 円生院 副住職 池尾 宥亮(いけお ゆうりょう)

1979年、奈良県生駒市生まれ。2003年、近畿大学文芸学部卒業。同年高野山専修学院にて伝法潅頂入壇了。2004年より3年間、真言三宝宗大本山清荒神清澄寺にて第39世法主光謙和上の随行として従事。2007年より長弓寺円生院副住職。2012年、『月刊 寺子屋新聞』を発刊。2013年、Templish設立。

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