巡る奈良

特別講話28祈りの回廊 2019年春夏版

「草創1300年記念事業の続く西国三十三所観音巡礼の札所」 岡寺
住職/川俣 海淳

広く「岡寺」の名で知られていますが、正式には「龍蓋寺(りゅうがいじ) 」だとお聞きしました
広く「岡寺」の名で知られていますが、正式には「龍蓋寺(りゅうがいじ) 」だとお聞きしました
 今親しんでいただいている「岡寺」という名は地名にちなむもので、古来の正式名称は「龍蓋寺」と申します。飛鳥時代に天智(てんじ)天皇の勅願によって、義淵(ぎえん)僧正が創建されました。
 義淵僧正はいろいろな伝説をお持ちの方で、そのお生まれにも、日夜観音様に祈りを捧げた夫婦が、その慈悲により授かったとの伝承がございます。この話は宮中にも伝わり、僧正は草壁(くさかべ)皇子とともに岡宮(おかのみや)で育てられたそうです。長じて僧正がその岡宮をもらい受け、寺に改めたのが龍蓋寺(岡寺)ということです。
 龍蓋寺の名は、地域の人々を苦しめていた悪龍を、僧正が法力で鎮め、境内の池に封じて大石で蓋をしたとの伝承に由来します。この「悪龍の災厄を取り除いた」との伝承が厄除け信仰につながり、当寺が「日本最初のやくよけ霊場」と言われる所以(ゆえん)ともなりました。
 当時「当代きっての傑僧」といわれた僧正の元には、後に東大寺建立などに活躍した良弁(ろうべん)や行基(ぎょうき)ら、奈良時代の名だたる高僧も訪れ、教えを受けたといいます。
草創1300 年を迎えた、西国三十三所巡礼の札所でもあります
草創1300 年を迎えた、西国三十三所巡礼の札所でもあります
 当寺は西国三十三所巡礼の第7番札所で、本尊には如意輪観音坐像(重文)をお祀りしております。この観音様は弘法大師がインド・中国・日本の三国の土で造ったと伝わり、像高は4.85mと、塑像(そぞう)(土の像)としては日本最大の像です。西国草創1300年の記念事業は2020年まで継続しており、普段開けることのない本堂内々陣の扉を春秋の一定期間開扉しているほか、ご希望の方には、復刻した江戸時代の御朱印も授与しております。
 また、当寺は西国三十三所のほか、奈良大和四寺巡礼や、なら六観音華絵巻の霊場でもあります。巡礼というのは尊いものです。寺には参道があり、拝観する方はこれを歩いて、門では一礼をして、手水舎で手を清めて…という一連の作法がございます。面倒とお感じになることもあるでしょうが、このような作法を通して、本尊にお参りをする心の準備を整えているのだと思います。巡礼とは、それを何度も繰り返すことです。繰り返すうちに、おのずと頭の整理もつき、抱えていた悩みも小さなものに感じられるようになるかも知れません。それもまた、仏様のご利益なのだと思います。
山中の境内は四季折々の花が咲き、特に春の石楠花(しゃくなげ)や天竺牡丹(てんじくぼたん)が人気です
山中の境内は四季折々の花が咲き、特に春の石楠花(しゃくなげ)や天竺牡丹(てんじくぼたん)が人気です
 石楠花はそうとう古くからありまして、今では3000株ほどがございます。また4年前からはゴールデンウイークに、境内の池や水路に500輪の天竺牡丹(ダリア)を浮かべる「華の池」というイベントを行っております。これは、せっかく足を運んでいただいた皆さまに、より楽しんでいただきたいという思いで続けているものです。
 私は参拝のきっかけが、お花であっても良いと思うのです。「そろそろきれいな時期だから」と、寺に足を運んでいただく。その時、せっかくだからと、ご本尊に手を合わせる。それが、その方の仏門となるかも知れないのです。
 仏教では、仏の教えは八万四千(はちまんしせん)と言います。これは無限という意味です。仮にお花や門前の名物菓子が目当てでも、寺にお越しいただくということ自体が、仏様に近づく一つの手段であろうと思います。まずはあまり深く考えず、旅の楽しみとしてお参りください。それもまた、観音様のお導きなのだと思います。
プロフィール

プロフィール

岡寺/住職 川俣 海淳(かわまた かいじゅん)

岡寺中興第十七世山主。
前総本山長谷寺寺務長、長谷寺顧問、地元においては明日香村教育委員長などを歴任

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