巡る奈良

祈りの回廊 2017年春夏版

花咲く古都 緑濃き大和路
奈良庭園をめぐる

奈良の名勝庭園

奈良の庭園は、それぞれに歴史や役割を持っています。平安時代以降に広まった浄土式庭園や、枯山水の庭は多くはありませんが、社寺の一部として、あるいは深いゆかりを持つ場所として大切に守られてきました。そしてそれぞれに違った趣が感じられます。今回ご紹介する円成寺、旧大乗院庭園、依水園のほか、慈光院庭園、當麻寺中之坊庭園、法華寺庭園なども、国により名勝として指定されています。

円成寺

写真:豊田 定男

円成寺(えんじょうじ)

楼門(室町時代・重文)の前面に広がる見事な浄土式庭園。平安末期に造られて以降、埋もれることなく残る庭園として、最も古い時代のもの。

  • 奈良市忍辱山町1273
  • 0742-93-0353
  • JR・近鉄奈良駅から柳生行きバス「忍辱山(にんにくせん)」下車、徒歩約2分
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旧大乗院庭園

写真:豊田 定男

旧大乗院庭園(きゅうだいじょういんていえん)

興福寺門跡寺院跡を、室町時代の作庭の名手・善阿弥が手がけた庭。明治初頭まで南都一の名園と称えられました。文化館の窓越しに眺めると、まるで生きた日本画のようです。

  • 奈良市高畑町1083-1
  • 0742-24-0808(名勝大乗院庭園文化館)
  • JR・近鉄奈良駅から天理・下山行きバス「奈良ホテル」下車、徒歩すぐ または「福智院町」下車、徒歩約1分
  • 月曜日、祝日の翌日(土・日曜日除く)
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依水園

写真:依水園

依水園(いすいえん)

時代の異なる(江戸前期、明治期)二つの庭からなる池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)庭園です。周りから隔絶された静寂の世界を感じられる前園と、東大寺南大門や若草山を借景とする贅沢な空間を感じられる後園より成ります。

  • 奈良市水門町74
  • 0742-25-0781
  • 近鉄奈良駅から徒歩約15分
  • 火曜日(但し4・5月、10・11月は無休)、年末年始
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いろいろ、魅力いろいろ

なぜ作られたのか、いつ作られたのか、だれが作ったのか。そんな庭の生い立ちを考えながら眺めるのも興味深ければ、ただただその場に身を置いて静かに時間の経過を味わうのも贅沢な愉しみ方。人が手をかけて育て、徐々に自然に還してゆくような不思議な空間。奈良の庭が持つ魅力です。

願行寺

写真:長谷川 朋也

願行寺(がんぎょうじ)

奈良では珍しい枯山水の庭。阿弥陀浄土への船出を表しています。仏さまを表す縦長の岩を配し、海原を表す石がごつごつしているのは人の世の悩みや困難を表します。お庭を眺めながら薬膳料理やお茶をいただくこともできます。

  • 吉野郡下市町下市2952
  • 0747-52-2344
  • 近鉄下市口駅下車、徒歩約20分

矢田寺大門坊

矢田寺大門坊

写真:エマニュエル・マレス

矢田寺大門坊(やたでらだいもんぼう)

奈良文化財研究所の研究者であり、作庭家であった森蘊(もりおさむ)の手による露地(ろじ※ 1)。この茶室は、あじさいの時期に茶席として一般開放されます。
(※1)茶室に付属する庭のこと

  • 大和郡山市矢田町3506
  • 0743-53-1445
  • 近鉄郡山駅から矢田寺前行きバス終点下車、徒歩約10分
    ※あじさいの時期は、JR法隆寺駅から矢田寺前行き臨時バス運行予定(詳細は奈良交通へお問合せください)
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竹林院

写真:吉野ビジターズビューロー

竹林院(ちくりんいん)

竹林院は聖徳太子の創建と伝わる寺院。その庭園である群芳園は千利休作庭、細川幽斎改修と伝わる大和三庭園の一つ。池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)庭園で、四季の移り変わりを楽しめます。格式ある宿坊も備わっています。

  • 吉野郡吉野町大字吉野山2142
  • 0746-32-8081
  • 近鉄吉野駅からロープウェイ「吉野山」下車、徒歩約25分(※バス本数少ない)/近鉄吉野神宮駅からタクシー約15分
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秋篠寺

写真:豊田 定男

秋篠寺(あきしのでら)

まさに苔のじゅうたん。ふかふかしっとりとした見るからにやわらかな苔が木々の根元に広がります。ことに雨上がりの美しさには、ため息がもれるばかり。

  • 奈良市秋篠町757
  • 0742-45-4600
  • 近鉄大和西大寺駅から押熊行バス「秋篠寺」下車すぐ
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森野旧薬園

写真:森野吉野葛本舗

森野旧薬園(もりのきゅうやくえん)

日本最古の薬草園のうちの一つ。四季折々に薬草約250 種が育ち、人の目を楽しませます。森野初代藤助賽郭(とうすけさいかく)が、晩年薬園内に建て、薬草の研究に没頭した桃岳庵(とうがくあん)が残ります。薬草園からの宇陀の町の眺望にも心打たれます。

  • 宇陀市大宇陀上新1880
  • 0745-83-0002
  • 近鉄榛原駅から大宇陀行きバス「大宇陀」下車、徒歩約4分 または タクシー約15分

マレス先生に聞く 私の奈良の庭の愉しみ方

奈良の庭について考えるときに、庭園研究家の森蘊(もりおさむ)氏の存在は欠かせません。円成寺、旧大乗院庭園、法華寺など、由緒ある名勝庭園の修復と復元に関わっただけではなく、新しい庭も多く作りました。例えば、矢田寺大門坊の露地(ろじ)(※1)。茶室に腰を下ろすと、東側に広がる大和平野と山並みにうっとり見とれてしまいます。この絶景を際立たせているのは、手前の狭い庭ですね。白砂の中に飛び石が並び、そして苔の中から五つの小さな石がちらっとはみ出ているだけ。前景が目立たないからこそ、借景(しゃっけい)の大和平野まで手が届きそうですが、じつは生け垣のすぐ後ろは急な崖になっています。地形と眺望を見事に活かしている庭です。
この矢田寺大門坊の作庭は、森蘊氏の指導の下、若き日の古川三盛(みつもり)氏が従事しています。今、現代日本を代表する作庭家になっていますが実は、矢田寺の有名なあじさい園を作ったのも古川氏。満開のあじさいに圧倒されやすいですが、渓流の中にある飛び石の絶妙な配置にもぜひ注目してほしいです。自然のようでも、これはすべて人間の仕業。誰が手がけたかを知るのも、庭の愉しみ方の一つですね。 四季の移り変わりを味わいたいなら、正暦寺(しょうりゃくじ)の福寿院客殿の庭園がお勧めです。庭と山とが一体化しているので、縁側に座るだけで心が癒やされます。しかし、この深山幽邃(しんざんゆうすい)の趣を演出しているもっとも重要な要素は客殿から見えません。それは石垣の下を流れる菩提仙川(ぼだいせんがわ)のせせらぎ。そう、庭は目だけではなく、耳を澄まし、五感を澄ますところです。
願行寺(がんぎょうじ)の枯山水(かれさんすい)はまったく違う構成ですが、私の心を惹きつける庭の一つです。大書院の南に力強い石庭が広がっています。縁先には、近くの吉野川から運ばれた玉石がゴロゴロと。渦巻いているような石組みからも荒波のとどろきが聞こえてきそうですが、奥にどっしりと構えている立石が安定感と安心感を与えています。「動」の中に「静」を求める人の心の表現だと解釈したらよいのでしょうか。
大好きな奈良の庭はまだまだあるのですが、ひとまずの締めくくりに奈良公園についてもう少しだけ。東大寺南大門の東側に、吉城川(よしきがわ)を引き込んだ池や滝があるのをご存知でしょうか。その中に人間も鹿も自由に行き来できて、まるでこの世の楽園ですね。奈良を巡ると、庭は囲われた空間だけではなく、人間と自然、前景と背景、借景、風景、環境などと、とても広い意味をもつ場所だと思い出させてくれます。
(※1)茶室に付属する庭のこと

マレス先生のおまけ講座 埋もれた庭園

「奈良らしい庭」といえば、長い間地下に埋もれていた庭園を忘れてはいけません。1960年代以降、多くの発掘調査が行なわれ、忘れられていた古代庭園が再び姿を表わしました。研究の成果に基づいて復元された庭を眺めながら、はるか昔に思いを馳せることができるのも奈良という土地こそでしょう。平城宮の東院庭園と宮跡庭園(※2)がその代表例。緩やかなカーブを描く汀線(ていせん)(※3)、玉石を敷き詰めた洲浜(すはま)、自然石を使った石組みなど、いわゆる日本庭園のルーツがそこにあります。

(※2)現在、覆屋を架け修理中、修理期間中は覆屋の外から窓越しでの見学
(※3)水面と陸地との境界線

Profile
エマニュエル・マレス(Emmanuel MARES)
1978年生・フランス人
(独)国立文化財機構 奈良文化財研究所 文化遺産部 客員研究員
2006年京都工芸繊維大学で博士号取得
著書に『縁側から庭へ―フランスからの京都回顧録』あいり出版(2014)などがある。
2015年日本庭園学会奨励賞を受賞

可憐に誘われて

四季折々の花に魅せられて、社寺を訪れる方も多いでしょう。春から夏、彩りも鮮やかに、さまざまな花を愛でることができます。仏さまに寄り添うように咲く、あの花、この花。自然が紡ぐ景色に心を添えてみませんか。

白毫寺

写真:白毫寺

白毫寺(びゃくごうじ)

椿 3 月下旬~ 4 月中旬

奈良三名椿の一つ。見頃は3 月下旬~4 月中旬。花びらが赤いもの、白いもの、斑のものと多様であることから「五色椿」と呼ばれます。花が落ちて尚、美しい古木。

  • 奈良市白毫寺町392
  • 0742-26-3392
  • JR・近鉄奈良駅からバス「高畑住宅」下車、徒歩約20分 または「 白毫寺」下車、徒歩約10分(便数が少ないので要注意)
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當麻寺西南院

写真:當麻寺 西南院

當麻寺西南院(たいまでらさいないん)

ボタンなど 4 月~ 5 月

池泉回遊式の風雅な庭園。庭園の一隅にある水琴窟の妙音にも心洗われます。4月~5月には、シャクナゲやボタンなどの花が咲き誇ります。

  • 葛城市當麻1263
  • 0745-48-2202
  • 近鉄当麻寺駅から徒歩約15分
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金剛寺

写真:金剛寺

金剛寺(こんごうじ)

ボタン 4 月下旬~ 5月上旬

文字通り百花繚乱の境内となる花の寺。「文政5 年(1822 年)当時の本常和尚が薬種として植えた」と伝わるボタンの見頃には、とくに多くの参拝客が訪れます。(ボタン園は4 月20日~ 5 月下旬開園)

  • 五條市野原西3-2-14
  • 0747-23-2185
  • JR五条駅下車、徒歩約25分 または タクシー7分
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久米寺

写真:橿原市

久米寺(くめでら)

あじさい 6 月上旬~ 7月上旬

あじさい園の開園は6 月上旬〜7 月上旬。第3日曜日には『あじさい祈願』が行われています。3 月の雪柳や5 月のツツジも境内を美しく彩ります。

  • 橿原市久米町502
  • 0744-27-2470
  • 近鉄橿原神宮前駅から徒歩約5分
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竹林院

写真:豊田 定男

元興寺(がんごうじ)

キキョウ 6 月中旬~ 7月下旬

キキョウの見頃は6 月中旬〜7 月下旬。8 月の地蔵会の頃にもまだ咲いていることもあり、境内の石仏と灯明の間に揺れる可憐な花姿が心を和ませてくれます。

  • 奈良市中院町11
  • 0742-23-1377
  • 近鉄奈良駅から徒歩約12分/JR奈良駅から徒歩約20分
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