巡る奈良

祈りの回廊 2018年春夏版

奈良の古道を歩く

三輪山と万葉歌碑(桜井市) 写真:藤井 金治

入るのをためらうようなあぜ道や山間の小道が、実は有名な古道の一部。
奈良にはそんな場所が、そこかしこに残っています。
あまりに古く、当時のルートを特定できないことも多いのですが、
だからこそ、想像力を掻き立てられ、
のどかな風景の中、何気なく立つ道端の石仏にも、当時の人々の息吹が感じられるようです。

三輪山と万葉歌碑(桜井市) 写真:藤井 金治

『記紀』に記される日本最古の道山の辺の道

檜原神社の南に立つ山辺道の碑

檜原神社の南に立つ山辺道の碑(桜井市)

「三輪山を しかもかくすか 雲だにも 心あらなむ かくさふべしや」
 大和平野の東に連なる山々。山の辺の道は、その山裾を縫うように南北に走ります。冒頭の歌は飛鳥時代、大津宮(おおつのみや)遷都のため大和を去る際に、額田王(ぬかたのおおきみ)が詠んだとされる歌。三輪山は古来、神が鎮まると信仰された山で、額田王にとっては大和を象徴する存在だったのでしょう。今回の古道歩きは、この三輪山を祀る大神神社から始めます。すぐ北の狭井(さい)神社、檜原(ひばら)神社は大神神社の摂社。周辺は山の辺の道の中でも、特に古道の雰囲気をよく残しています。
 檜原神社からさらに北へ向かうと穴師(あなし)の集落に入り、その先には第10代崇神(すじん)天皇らの御陵があります。国道を挟んだ西側の黒塚古墳からは、卑弥呼の鏡といわれる三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)が33面も出土しました。さらに四季折々の花が美しい長岳寺や内山永久寺(うちやまえいきゅうじ)跡を過ぎると、石上神宮に出ます。古代の軍事氏族・物部(もののべ)氏の氏神を祀る古社で、朝廷の武器庫としての役割も果たしていました。
 現在観光客に親しまれる「山の辺の道」はこのあたりまでですが、『日本書紀』には「石(いそ)の上(かみ) 布留(ふる)を過ぎて 薦枕高橋(こもまくらたかはし)過ぎ 物多(ものさは)に 大宅(おおやけ)過ぎ 春日(はるひ) 春日(かすが)を過ぎ 妻隠(つまごも)る 小佐保(をさほ)を過ぎ…」という歌が残っています。恋人を殺された物部氏の娘・影姫(かげひめ)が悲しみを詠んだとされる歌で、姫は布留の地で知らせを受け、山の辺の道を駆けたのでしょう。古代の地名を並べたこの歌が、古道はさらに北へと延びていたことを示しています。

『記紀』に記される日本最古の道 山の辺の道
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大神神社

大神神社(おおみわじんじゃ)

本殿はなく、拝殿を通して三輪山を崇拝する古代の信仰形態を伝える古社です。

  • 桜井市三輪1422
  • 0744-42-6633
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石上神宮

石上神宮(いそのかみじんぐう)

神武天皇を助けた神剣・布都御魂(ふつのみたま)大神を祀ります。広い境内では神鶏も見られます。

  • 天理市布留町384
  • 0743-62-0900
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立ち寄りどころ

長岳寺

写真:澤 戢三

長岳寺(ちょうがくじ)

平安時代に空海が創建。花の寺で知られ、庫裏では三輪そうめん(700円)も味わえます。

  • 天理市柳本町508
  • 0743-66-1051
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柳生の剣豪も往来した峠道柳生街道

檜原神社の南に立つ山辺道の碑

十兵衛杉が見守る柳生の里(奈良市)

 柳生は、柳生新陰流で有名な剣豪の郷。奈良市東部の山間にあり、奈良市街から東海自然歩道で訪ねることもできます(※)。今コースの起点は、その中ほどにある名刹・円成寺。平安末期の浄土庭園や運慶作の大日如来がある寺として知られています。
 拝観後は門前の国道を北へ。東海自然歩道はすぐに車道から逸れ、杉林の中を走る本格的なハイキング道となります。夜支布山口神社(やぎうやまぐちじんじゃ)から先は集落に入り、棚田が連なる阪原(さかはら)地区には、初代柳生藩主の柳生宗矩(むねのり)が、洗濯をしていた娘・おふじを見初めた場所と伝わる「おふじの井戸」があります。
 阪原から急峻な「かえりばさ峠」を越えれば、柳生の集落です。柳生新陰流の開祖・石舟斎宗厳(せきしゅうさいむねよし)が両断したという一刀石、柳生十兵衛が諸国漫遊に旅立つ際に植えたと伝わる十兵衛杉などの見どころが、コンパクトにまとまっています。ただ、帰りのバス便は本数が少ないので、散策前にバスの時間を確認しておきましょう。
※奈良市街から円成寺までの東海自然歩道は、平成29年12月現在、崩落により一部通行できません

柳生の剣豪も往来した峠道 柳生街道
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円成寺

写真:豊田 定男

円成寺(えんじょうじ)

優美な楼門は室町時代の再建。春のつつじや夏の桔梗など、季節の花も美しい寺です。

  • 奈良市忍辱山町1273
  • 0742-93-0353
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旧柳生藩家老屋敷

旧柳生藩家老屋敷(きゅうやぎゅうはんかろうやしき)

幕末に藩の財政を立て直した家老・小山田主鈴の旧邸です。現在は武具や古文書などを展示。

  • 奈良市柳生町155-1
  • 0742-94-0002
柳生花しょうぶ園

柳生花しょうぶ園

10,000㎡の敷地に約80 万本のショウブが咲きます。花期に合わせ、6月前後のみ開園します。

  • 奈良市柳生町403
  • 090-8379-6537
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立ち寄りどころ

十兵衛食堂

十兵衛食堂(じゅうべえしょくどう)

バス停柳生の前にある食事処。大和芋を使ったとろろ定食や山菜定食(各1080円)が味わえます。

  • 奈良市柳生町83-3
  • 0742-94-0500

山麓に残る神々のふるさと葛城古道

高鴨神社東の風の森峠付近(御所市)

高鴨神社東の風の森峠付近(御所市)

 大和平野の東を走る「山の辺の道」に相対するように、西の葛城連山の麓には「葛城古道」が走っています。道沿いには古代豪族の 葛城(かつらぎ)氏・鴨(かも)氏ゆかりの古社が散在し、神さびた雰囲気が漂います。
 起点となる近鉄御所駅から西進、六地蔵石仏を目印に南へ折れると、すぐに田園風景が広がり、大和平野が一望にできます。千体石仏のある九品寺(くほんじ)から先、道は徐々に細くなりますが、そんな中、杉の巨木の間にひっそりと第2代綏靖(すいぜい)天皇の高丘宮跡(たかおかのみや)の碑が立っています。近くの葛城一言主神社は、一言ならどんな願いも叶えてくれると信仰されます。
 趣きある古民家が多い名柄(ながら)の集落を抜け山道を登ると、橋本院に出ます。金剛山腹のこの台地一帯は、天照大神が統治した天上界 「高天原(たかまがはら)」の伝承地。特に杉の巨樹が茂る高天彦(たかまひこ)神社参道は、神秘的な雰囲気があります。 麓にある高鴨神社は全国の鴨(加茂) 社の総社。京都にある世界遺産の下鴨(しもがも)・上賀茂(かみがも)両社も、源流はこの神社にあります。参拝後は国道に下り、風の森バス停にゴールします。

山麓に残る神々のふるさと 葛城古道
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葛城一言主神社

葛城一言主神社(かつらぎひとことぬしじんじゃ)

万葉集の巻頭を飾った雄略(ゆうりゃく)天皇の前に一言主大神が、人の姿をもって降り立った地と伝わります。

  • 御所市森脇432
  • 0745-66-0178
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高鴨神社

高鴨神社(たかかもじんじゃ)

鴨氏発祥地に鎮まります。4 月下旬には日本さくら草も見られます。

  • 御所市鴨神1110
  • 0745-66-0609
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立ち寄りどころ

鴨神そば

鴨神そば(かもがみそば)

高鴨神社隣のそば屋さん。ざるそば(700円)、とり南蛮そば(950円)などが人気です。

  • 御所市鴨神1126(葛城の道歴史文化館内)
  • 0745-66-1159